「デジタル・分散型金融のあり方等に関する研究会」の第一回会合のうち前半で申し上げた内容

--

以下、金融庁「デジタル・分散型金融のあり方等に関する研究会」の第一回会合のうち、前半で申し上げた内容です。後半の発言を含めた議事全体は、こちらをご覧ください。

--
皆さんこんにちは。ジョージタウン大学の松尾でございます。私のバックグラウンドは暗号とその応用で、25年ぐらいこの分野で研究しています。90年代の後半には、岩下先生と一緒に、日銀NTT電子現金というのにも加わっていて、ここにICカードがあるんですけども、これはソニーの栗田さんから御発表があったようなプロトコルだったり、実装だったり、ICカードのハードウエアを実際つくっていたという経歴もあります。最近はブロックチェーンの研究を行っているんですけども、まず、この場で最初に私の宣言をしたいんですけども、実は、私は暗号資産は一切持っていません。

これは、実は私が書いた論文というのが特定の暗号資産の値動きに影響を与えるということを言われてしまう可能性があるので、学術的に言う中立性の観点で、これは極めて重要です。こういう委員会の議論でも、こういうことは実は重要だと思っています。この研究会は極めて画期的で、分散的金融というのは日々イノベーションが発生していて、極めて話題になっていて、規制も変化している中で、まずデジタル・分散型金融企画室というのが金融庁にできたこと自体が、世界的に見ても画期的であって、この研究会ができたことも画期的です。

この研究会にかかる期待というのは日本だけではなくて、地球レベルで実は大きいと思っています。この研究会においては、私は今日、御提案申し上げたいのは、実はちゃんとしたプリンシプル、基本的な考え方の理念というのを定めるべきではないかと。議論、ベースとしてですけども。これは研究会の趣旨として、分散型金融のイノベーションの促進と適切な規制ということがあるわけですけれども、ステークホルダーの間で共通の理解を持ちながら、公益性の在り方を議論することが大事ですので、プリンシプルなしで個別の論点を議論してしまうと、ちぐはぐになってしまうだろうという気がします。その中で、私は3つぐらいを軸とするのがいいかと思っています。

1つは問題の構造の理解です。ビットコインのような、あるいはインターネットはグローバルな存在であり、それ加えナショナルなものと、インターナショナルものというのが3つぐらいレイヤー、違うカテゴリーのものがあって、それが相互に関係し合っているのだということをフレームとして理解することが重要です。従来、規制というのはナショナル、国内の事情で規制というのが決まります。一方で金融の場合はインターナショナルで、国同士の関係でも規制が議論されます。一方でインターネットがそうであったように新しい技術とかビジネスというアイデアは、国の事情とか国際事情と関係なくグローバルに発生します。これがイノベーションの源泉です。

ということで、ナショナルとか、インターナショナル、グローバルの動きがそれぞれに重要であると思うわけですけども、その調和をどう図るかということが重要で、それが今、金融の世界であるとか、この研究会に突きつけられている課題の構図です。これをちゃんと議論することが逆に世界に対しても重要なことだろうと思います。

2番目は、その上で重要なのが、トラストと責任の依存関係の理解です。パーミッションレスブロックチェーンをはじめとした、そういう分散型金融技術を用いた新しい金融において、トラストと責任の依存関係がどうなっているかという解明をすることは非常に重要です。これなしに規制は多分議論できません。

よくビットコインとかを議論していて、トラストレスという言葉があるんですけども、これは実は正確な定義はないし、ただのマーケティングワードであって、実際はいろんなトラストを提供する主体の肩の上に乗っているんですね。その依存関係というのは、書いていなかったり、明文化されていなかったり、隠れていることがあって、それを解き明かさないと実際どういう規制が正しいかといった議論はできません。

特に金融サービスにおいて、永続性、ゴーイング・コンサーンみたいなことはすごく重要ですけども、スタートアップに任せて、そのスタートアップはどこかに買収されました、倒産しましたというのは、それはいいのかということも含めて、永続性がすごく重要です。

もう一つは、インサイダー、誰がインサイダーかということは重要ですけども、分散型ではない企業の場合、インサイダーは分かりやすいんですけども、分散型金融だとインサイダーは分かりにくいです。イーロン・マスクのツイート1つで状況が変わるというのは、彼は隠れたインサイダーではないんだけど、インサイダーですよね。類似の問題で、例えばJPXの社員は現在は株を買えないんですけども、分散型金融というのはエクスチェンジに関わるエンジニアとかビジネス主体が、トークンを持ってるということが許されるのかみたいなことも利益相反という重要な点に当たり、こういういろんな論点があります。

あとは、パーミッションレスブロックチェーンの一番の特徴は、先ほど松本さんの話があったんですけど、私から観点を変えると、シングルポイントフェイラー、単一障害点を取り除くところに大きな特徴があって、これが規制上の大きなポイントですと。こういうアーキテクチャーでは誰が責任を取るのか分からない。これは先ほど岩下さんがおっしゃったとおりです。

あとは、マネタイズがすごく難しくて、インターネットにおいてはその通信を支えるISPの集合が、例えばその単一障害点を取り除く一つのポイントになっているわけですけども、ISPはインフラとして機能するけども、公共的な役割を持っているので、問題ない運用を継続すること、ゴーイング・コンサーンの話ですけども、それを約束する代わりに広く薄くお金をもらう。

一方で、スタートアップがやるようなイノベーションは、あえてポイントフェイラーをつくることで、そこに責任を負うことでお金をもらっているという構図があって、ポイント・オブ・フェイラーとポイント・オブ・マネタイズとポイント・オブ・レスポンシビリティーという3つの組は議論のセットになっていて、これが規制上重要です。

あと3番目、グローバルに動的な対話が確立しなければいけない。近年のインターネットを基調にしたビジネスというのは、情報の集約を行っていればよかったという昔と違っていて、その在り方が財産とか健康とか、こういう極めて重要なポイントに引っかかっているがゆえに、大問題になっていて、昔だと、フェイルファストという、失敗を含めてトライから最善を見つければよいというやり方だったし、シリコンバレーはそういうやり方ですけども、現在は規制当局と対話をしなければいけないとなっていて、シリコンバレーの大きな企業もそのスタイルが変わってきています。この変化をちゃんと捉える必要があるだろうということです。

そのような対話をちゃんとするためには、マーケティングワードを使っていてはいけなくて、これはブロックチェーンもそうだと思うんですけども、例えば査読付き論文みたいな第三者検証可能な形で、議論の積み上げが必要です。これはDeFiとか分散型金融とかブロックチェーンですが、大抵の場合、マーケティングワード的に使われていて、この点にこの研究会は非常に留意する必要があります。

残念ながら、ブロックチェーンの技術、これは、私はいろんな学会のプログラムチェアとかをやっているので、実態を知っているんですけども、日本のブロックチェーンの技術の担い手からこういう論文が出てきていないです。LNCS、Lecture Notes in Computer Scienceという、コンピューターサイエンスの世界では一定のクオリティーを保ったジャーナルのシリーズがあるわけですけども、そこで、ブロックチェーンの査読論文を発表している日本人で、一番出しているのは金融庁の職員です。これぐらい金融庁の職員がたくさん頑張っているのに、エンジニアが頑張っていないという事情があるのは、あえて苦言を申し上げなければいけないかと思っています。

対話のエキスパートという人材も必要です。ビジネスサイドにも必要だし、金融庁にもそういう対話をする人が必要です。

もう一つ最後、動的なという意味で言うと、エルサルバドルでビットコインの法定通貨化が急に決まったように、事態はダイナミックに変化していて、この研究会を半年、1年やって、いろいろ議論を積み上げたんですけど、報告書を発表する前日にひっくり返るということが、この世界ではまだ起きるわけですよね。ということで、こういう事情を勘案して、グローバルに動的に動きを取り込んでいく必要があるだろうと思っています。

ということで、この3点を、この研究会での議論の考え方としてやるのが重要ではないかということで提案させて頂きます。長くなりましたけど、以上です。

--

--

Shin'ichiro Matsuo
Shin'ichiro Matsuo

Written by Shin'ichiro Matsuo

Research Professor at Virginia Tech and Georgetown University

No responses yet