「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」(第10回)でお話した内容
「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」(第10回)の議事録がでましたので
、その中で私の発言を抜粋します。議事録全体は、こちらをご覧ください。
【松尾メンバー】(仮訳)
ありがとうございます。ジョージタウン大学コンピューターサイエンス学部の研究教授を務める松尾と申します。
裁判が発生した場合に必要な法的証拠を提供するため、新たなテクノロジーの開発者向けに何らかのフレームワークをUNIDROITは提案しているでしょうか。規制テクノロジーの開発に向けた将来的な機会に関する質問です。技術の中立性が重要と理解しましたが、確かなデータアセットエコシステムを築くためには、証拠提供機能が重要です。以上が質問です。
【Tirado教授】(仮訳)
UNIDROITが裁判の証拠に適用可能なルールを提供する可能性はあるかという質問ですか。
【松尾メンバー】(仮訳)
はい。例えば現状ビットコインやブロックチェーンの開発者は裁判に使える法的な証拠を提供する機能について考えていません。ところが、私法や何らかの紛争では法的な証拠が重要です。開発者に何らかのテクノロジーの搭載を求めるべきですが、新しいテクノロジーを構築するにあたり、一般人や規制当局とエンジニアの間にコラボレーションやコミュニケーションのフレームワークが必要です。
【Tirado教授】(仮訳)
確かに重要な点ですね。これは分散台帳技術ですから、レジストリが、資産の移転があった場合には、犯罪科学の専門家が移転先などを追跡できると思います。公開鍵は見つかるでしょうが、その裏側にいる人物の特定は困難です。またこうした点を規律することを原則に委ねるべきではありません。原則はその領域に達していません。訴訟法は多くの意味で公法であり、各国の管轄となります。我々は法の執行に取り組んでおり、この取り組みを通じてデジタル資産関連法の執行とテクノロジーの使用の双方に有益な成果をたくさんもたらしています。ただし、裁判向けテクノロジーの開発やその義務化は各国の規制に委ねるべき問題でしょう。私たちにできることは多くないと思います。UNIDROITが提案すべきと政府を説得してくれるなら喜んで取り組みますよ。
【松尾メンバー】(仮訳)
ありがとうございます。
【松尾メンバー】
ありがとうございます。質問というよりはコメントになりますが、いろんな先生方のコメントの中にも動機という言葉が出てきたように、これ、基本的にはかなり技術の話であるのと同時に、ある種の人間の営みの話であると思うんですね。ある種の技術が出たときに、その技術を皆さんが理想と思っているように使うのか、そうじゃなくて私腹を肥やすために、あるいは人をだましてお金を取るために使うのかというのは、人間側の営みの話であります。今回のレポートもそうですし、以前からずっと、毎年、金融庁様はこのレポートを出して頂いていますけども、基本的には技術がまだ力不足であるということをずっと克明に報告して頂いていると思うんですね。今のブロックチェーンの技術あるいはその周りのアプリケーションをつくる技術も含めて、人間の悪意も含めた営みとそのガバナンスをカバーするには力不足だということだと思うんです。
前半のほうの議論でも、私法上の話ではありますけど、裁判に耐え得るかという話をしたのと同時に、結局、例えば何か金融犯罪であったり、こういうブロックチェーンを使って何か犯罪を起こす、マネロンするといったときに、最終的には裁判にかけないといけないわけで、例えばこういうふうに分析ツールを使った結果が裁判に耐え得るものなのかということも含めて、もう少しブロックチェーンにいろんな機能をつける必要があるんですね。こういう結果を見たときに、いや、この程度なんだ、力不足なのだから強く規制をすべきなのかというやり方もありますし、いやいや、逆に人間の営みに合うようにガバナンスの機能を強化する、それは先ほど申し上げたとおり、ある種の裁判所の証拠を提供する機能をエンジニアがつけてくれたものに関してはある種のお認めをするということも含めて、人間の営みに追いつけるような機能強化をするということを一緒に規制当局とエンジニアが考えていくというやり方もあって、今回の報告を見ただけで言えることは、明らかに力不足ですというところは言えるんですけども、その先どうするかというのはいろんな方向性があると思うんですね。
研究会の今回でも、できれば両方の方向があり、かつ、私は以前からレグテックが大事だと言っているのは、この新しい技術が仮に大事だと思うのであれば、いかに人間のガバナンスに近づけていくのかという努力をするべきだし、あるいは規制当局としてこういうことがあってほしいということが今後議論されるといいなと思っていますので、この今回の調査結果の取扱いという意味で、いろんな方向性があるのだということを今後打ち出していって頂ければいいかなと思っています。