「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」(第7回)でお話した内容
「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」(第7回)の議事録がでましたのて、その中で私の発言を抜粋します。議事録全体は、こちらをご覧ください。
【松尾メンバー】
松尾でございます。御説明、2件も含めて非常にありがとうございました。ただし、前回と違って今回かなり、Web3.0というかなり幅広い話題と、あと今回議論頂きたい事項、資料2のものがかなり漠然としたというか、かなり包括的な質問になっているので、なかなか意見が申し上げにくいなと思いつつ、論点のうちの幾つかに対してちょっとコメントをしたいと思うんですけども、まず2番ですね、ユースケースはどんなものがあるかというのは、実はその前の御説明にも関係するんですけども、もともとブロックチェーンなりでやりたかった、ある種、単一障害点を減らしながらセキュアに何かをつくるという意味で、本当にそのセキュリティーも含めて、成功している例というのは極めてまだ少なくて、恐らくまだビットコインだけだと思うんです。
実はそのビットコインって、先ほどの説明にもあったんですけど支払いに特化していて、これはわざと特化しているんです。彼らはわざとスマートコントラクトに手を出していなくて、何でかといったらセキュリティーと分散性に対してスマートコントラクトを投入することにまだ疑問があるからです。彼らのコアのエンジニアリングコミュニティーの考え方でいうと。
なので、もちろん、いろんな応用の中ではスマートコントラクトであったりとかいろんなところに広げたいのですけども、技術的に正直にやろうとするとかなり慎重になっているというのが現状かと思いますし、ある意味スマートコントラクトに安易に広げることで、事故がたくさん、今年になって100億円単位の事故って死ぬほど起きているわけですけども、起きてしまったりとか、あるいは、これも後ほどこの研究会で議論になるかもしれませんけども、プルーフ・オブ・ステークを導入することによって、アメリカのSECからは、いわゆる証券該当の可能性が上がるという議論もされています。
(SEC委員長の)ゲーリー・ゲンスラーからすると、ビットコインだけはどうしても証券にできなさそうだなという趣旨の発言をしたわけですけども、そういう証券にならない範囲で何ができるかということを追及したビットコインが、ストイックにペイメント(支払い)だけをやっているというのと、それを広げたがゆえに、もともとやろうとしていたことから、最終的に従来型の証券の高度化みたいなものに縮退していっているというトレードオフの関係があるわけですけども、そういうところになるので、まだまだ時間がかかると思うんです。
もちろん、時間がかかるということに関してそんなに悲観的になることはなくて、2回目のときに御説明したと思うんですけども、インターネットもARPANETが始まってから商用化するまでに26年かかっているわけで、それからインターネットらしい双方向のサービスができる、SNSが商用サービスの最初の、LinkedInとかそうですけども、それまで8年かかっていることを考えると、どちらかというとイノベーションはインクリメンタルに起きて、何かのバックキャストというよりは、徐々に、誰かが新しいものを思いついて、セキュアに、石橋をたたいて渡るようにできてくるものだと思うので、それはそういうものだと思いつつ、じゃあどこが本当にイノベーションの基なのかということを改めて考える必要があると思いますし、セキュリティーを無駄にしてもいいから、そこを安易に広げていいというものではないというところだと思うんです。
その意味で、私は明日のデジタル庁のWeb3.0の研究会のメンバーにもなっているので、会によってちょっと話すことを分けなきゃいけないなと思いながら考えているんですけども、これ、金融庁の研究会の観点で言うと、やはりエンドユーザー、特に消費者保護の観点で言うと、エンドユーザーに対する透明性であるとか、あるいはリスクに関して、改めて洗い上げる必要があるんだろうと思っているんです。
ここまでのリスクの議論で、今日の議論でも、いわゆるマネロンの話がたくさん出ているんですけども、私もアメリカに住んでいるわけですが、アメリカにおいて今議論になっている、あるいは訴追されている多くはインサイダー取引、NFTも含めてインサイダー取引なわけですよね。
インサイダー取引が実態として起きていることがたくさんあって、それがどういうことなのかということを改めて研究する必要があるんだろうと思っています。
あと、先週OECDでやっているブロックチェーン・ポリシー・フォーラムに私はスピーカーで参加しましたが、そこでの議論でも、例のsame risks,same rulesに関して言うと、これが基本だねということは改めていろんな人が確認をするんですけども、一方でsame risksではないというところもあるので、改めてやっぱりsame risks,same rulesではあるんだけども、same risksとは細かく見るとどう言うことか、というところをやっぱり改めて考える必要があるんだろうと思っています。
あと、金融行政において取り組むべきものは何があるかという御質問に対しては、僕は、先ほどデューディリジェンスという話が出てきたんですけども、デューディリジェンスってすごいコストがかかって、政府が単純に、誰がコストを払うんだろうとか思っていたんですけども、ただ、少なくともどういうプロセスがあるとみんなが納得できるのかというプロセスの標準化と、あとは、それぞれのスタートアップもそうですけども、どういう人がいないと安心して、設計から運用まで、あるいは事故が起きたときの対応までちゃんとできるのかというところを、改めて、そのスキルセットと、何人どういう人たちが必要なのかというところを明らかにする必要があると思います。
あとは、改めて金融規制というのが何でできたのか、今般、規制緩和も含めてこれから議論されると思います。人間って、どうしても悪いことをする可能性がある動物なので、だから金融規制というのができてきたわけだけど、金融規制が何でできたのかということを、これはもう前世紀からの歴史だと思うんですけど、改めて実は共通認識を持つという意味で、金融庁の方から、何で金融規制があるんだっけということを御説明頂くのがいいのかなと思っています。
あとは、最後の留意すべき点でいうと、これ、あしたも実はそのデジタル庁で申し上げようと思っているんですけども、ガラパゴスにならないことがとても重要で、アメリカにいると、日本の議論とアメリカの議論って大分違うなと思っています。
なので、ガラパゴスにならないことが非常に重要かなと思います。これは、日本のWeb3.0のスタートアップが世界でリードするのだということが骨太の方針の裏にあると思うんですけども、日本のスタートアップが外に出ていくときに、ガラパゴスになっていると出ていけないというよくあることがあるので、その意味でも、日本と日本以外の国の規制、あるいは物事の考え方をアラインしていく必要があるだろうということ。
もう一つは、この自民党のNFTペーパーから骨太の方針に至るまでは、おおむね1月、2月ぐらいの状況によって立案されていると思うんですけども、2月と10月ではかなり状況が違います。
2月ぐらいは、Web3.0のスタートアップに人が流れている、シリコンバレーでも話があったんですけども、もう6月には逆流していて、Web3.0のスタートアップからかなり引き揚げているんですよね。お金も引き揚げ始めているということで、かなり状況が違うということも含めて、最新の状況をまず把握する必要があるだろうという気がしています。
あともう一つは、ホワイトハウスのファクトシートが先々週出ました。3月の大統領令のフォローアップで出たんですけども、その中ではかなり重要なメッセージがいろいろ込められています。今日はちょっと時間がないと思うので、また次回にでもそれの研究をしたいんですけども、特にアメリカとしては地に足をつけて、そのために高度な人材をそろえて、そのための費用というのをNSFのファンディングも含めてちゃんとそろえていこうという意思をすごい感じるメッセージになっているので、そういうところも含めてガラパゴスにならないことというのを御提案したいと思います。
以上です。